1. 歯髄温存療法の成功率について
日本の根管治療の成功率は平均40%未満です。専門医の初回の根管治療の成功率は、およそ90%と言われています。専門医でも、だいたい10本に1本は再発するのです。そして、再発した歯に対しての「再根管治療」の成功率は60%程度とガクッと落ちます。治らない場合は歯の部分切除や、抜歯となってしまいます。
2. 歯髄温存療法とは?
虫歯が神経に到達するくらい大きく広がっている場合、通常では抜髄という歯の神経(歯髄)を全て取り、根の中を綺麗に掃除しないといけません。この処置を歯科では「抜髄」と呼びます。抜髄をした歯は治療で削る分、歯質が少なくなり神経のある歯より割れやすくなります。更に、生活反応を失うことで虫歯の再発リスクも高くなります。
簡単にいうと、神経を失った歯は歯の寿命が短くなってしまうということです。ですから、私たち歯科医師は出来る限り神経を残したいと考えます。
3. 歯髄温存療法のメリットとデメリット
メリット
- 根管治療(歯の根の治療)を回避できる
通常虫歯が神経まで達していた場合、神経を除去する治療が必要になってしまいます。
歯の根の中は大変複雑な形態となっており、なおかつライトの光が届きにくく直接目でみて治療することが困難な場所になります。
そのような理由から根管治療は歯科治療のなかでも技術的に困難な治療に分類されます。歯の予後を考えた場合、避けられるのであれば避けたい治療となります。
歯髄温存療法を行うことで治療が困難な根管治療を回避できる可能性があります。 - 虫歯に侵されていない健全な組織を温存できる
根管治療を行うためには、歯の根の方向に器具を到達させるために虫歯に侵されていない健全な歯の部分を仕方なく削ることがあります。
健全な歯の部分をどれだけ多く保存できるかどうかはその歯の強度に影響してしまいます。
歯髄温存療法を行うことで根管治療を回避でき、必要最小限の歯の削除にとどめることが可能となり、治療後の歯の強度に寄与できる可能性があります。 - 歯の寿命をできるだけ延ばすことができる
神経を取る治療は、神経の他にも歯に栄養を送っている血管も同時にとってしまいます。
そのため歯に栄養が行き届かなくなります。
届かないということは経年的に歯が脆くなるということです。
通常根管治療を施した歯は、残っている健全な歯の量によっては根の中に芯棒をたてて、その上に被せ物を作成します。
この芯棒が弱ってしまった根に破壊的な力を加えてしまい、歯の根を破壊してしまうことがあります。最悪、抜歯を余儀なくされることもあります。歯髄温存療法を行うことで治療後の歯の健康に寄与し、歯の寿命をできるだけ延ばすことができます。
デメリット
- 全ての症例に対して歯髄温存療法が適応になるわけではありません。適応から漏れてしまった場合は通常の根管治療の適応となります。
- 神経(歯髄)を保存できない場合があります。
- 治療直後は歯がしみる場合があります。
4. 失敗するとどうなる?
治療の直後は、むし歯除去時の刺激や覆髄処置の刺激により、一時的に歯が過敏になり、冷たいものなどでしみたり痛む場合があります。 歯髄の回復に伴い、通常これらの症状は軽減・消失していきます。
5. まとめ
歯髄温存療法についての成功率、失敗した際のことについてメリット・デメリットを踏まえて解説しました。
まとめると、専門医の初回の根管治療の成功率は、およそ90%とかなり高い確率で成功することがわかっています。しかし、一歩で失敗するリスクも存在するということがおわかりいただけたかと思います。
通常虫歯が神経まで達していた場合、神経を除去する治療が必要となりますが……